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「もふ」
「みなさんこんにちは、ウィークリーもふ通司会のエリオさんです……と、隣で布団ぐるぐる巻きの人が言っています。あ、俺は通訳です」
「もふ」
「布団外して喋ればいいじゃんとか思ってません」
「もふ」
「余計なことを言うな? はいはい。では今日は様々な世界に出没する謎の生命体、スマキンを追って、その知られざる生態をご紹介しよう……って、これ違うぞ」
「もふ」

 

『その1』

 

 なんだろうこれ。朝起きると、変なのが部屋の隅っこに座っていた。
上半身に布団をぐるぐる巻きにして、足をじたばたさせている。
「むぅ、これは噂の……えぇとなんにするかな。新手の妖怪でいいか」
いやまぁ嘘なのだが。寡聞にして存じていないぞ、こんなの。マユはベッドの上で寝息を立てているし、そういう遊びでもないようだ。なにより上から覗ける髪の色がちょっとおかしい。
 水色である。外人さんにもなかなかいまい、こんな色。つうか、地毛ではこの世に一人もいないと思う。ということはやはりこの中身は人間ではないということだ。もしかすると僕の血統とか血の滲むほどのサイキック修行のたまものとして、人には見えないものが見えるように開眼したのかもしれない。したわけがない。当然ながらそんな才能も努力もなにひとつ持ち合わせていないので、見てはいけないものを見えるようになった、の方がまだ現実味がある。
 つまり僕の頭がおかしくなったわけである。いやいや、それは前からだよきみぃ。
「ふーあーゆー?」
言葉は通じるのだろうかと試してみる。髪の色が日本人からかけ離れているので、英語でコミュニケーションを取ってみた。英語は地球語だから、中身が万が一宇宙人でも勉強ぐらいはしてくるのではないだろうか。
「もふっ」
一応、反応はあった。外見から予想されるくぐもった声である。で、なんだ。
 なんだかよく分からないので布団に手を突っ込む。上から手を入れて、その水色の髪に触れてみた。角のない氷に触れているような、滑らかな手触りに驚く。異世界か、異星人か。別世界を指先から目玉へ伝えるほどの、場違いで不思議な触り心地だった。
 その髪を弄る中でつむじを発見したのでぐりぐりいじめていると、「もふー」と憤る。
 そして急に立ち上がった。立てたのか、と思いつつその動向を見守るとどういう魔法を使っているのか、塞がっているはずの視界に頼らないで正確に扉を目指して動き出した。
「あ、逃げた」
てっててってと走っていく。引き留める理由がないので、そのまま放っておいた。
 どうやって部屋に入ったとか非常に気になる点は多々あるが、あのまま居座っていたらマユに黒ひげごっこされていただろうから(僕含む)助かった。そのマユがもぞもぞと起き上がる。目をこすって僕と目が合うと、にへーっと笑う。
「なんか、みーくんが光って見えるー」
「ん?」
 指摘されて指先を見ると、水色の粒子がふわふわと浮かんでいた。まとわりつくわけではなく、共にそこにあるように一定の距離を保って。見つめていると、ふっと、どこかに吸い込まれるように儚く消えていく。身体の隙間に、その光をそっと忍ばせるようだった。
 さっきの子の髪に触れたからだろうか。改めて、なんだありゃあ。
「きらきらー」
 マユが嬉しそうに飛びかかってくる。僕の光を微かに残す指先に。抱き留めようとしたけど本当に飛翔して突撃してきたので、受け止めきれずにごでんと「ぐぉぎぇ」腰打った。ついでに床とマユの間で上半身が潰されて、轢かれたカエルみたいな声が出て、目が回った。
 目の前が「きらきらー」そんなこと言っている間に光の残滓は世界から消失する。
 残るのは濁って、ほとばしるほどの痛みだけだった。

 

「もふ」
「知ってる生態しか出てこないんだけど」
「もふ」

「はいはい、次をどうぞ」


『その2』

 

「石竜子くん、変なの拾ったよー」
 そんなことを言いながら、巣鴨が嬉々として俺の家へやってきた。変なものを拾って嬉しがるのはなんとも巣鴨だが、本人は手ぶらだ。後ろに控えている白ヤギさんが抱えて運んできたそれは、布団だった。ロールケーキの如く巻かれたそれを見つめていると、目がぐるぐる回る。同時に記憶もぐるんぐるんと弄られるようだった。
「布団を巻いた水色の髪。うっ、なんか頭が」
思い出すなと俺のなにかがささやく。ピザを連想するが、うむ、まったく思い出せん。
 ということにした。それが「もふー」とじたばた暴れている。

「どうしようこれ」

「なんで俺に意見を求めんの?」