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 倉庫の片隅に座り続けるチョコに幾つもの配線を繋げて、緒方博士が傍らの機械を弄る。本来は資材倉庫であるはずのそこに大仰な機械と机、そして生活用具を持ち込んで好きに振る舞う博士の姿を、作業員たちは遠巻きに眺めるばかりで声をかけるようなことはなかった。
 そんな博士に声をかけるのは、新たに訪れた真白き女性。
「はーい」
 宇白町長が片手をあげて挨拶すると、緒方博士が小さく振り向く。
「おや。また無理難題でも持ってきたのかね」
「今日は単なる散歩よ」
 変わった散歩コースだ、と博士が適当に流す。町長はチョコの前へと動く。
「あなたの最高傑作はよく寝るわねぇ。私、一日に十時間以上寝たことないわよ」
「今、丁度起動させるところだ。見ていくかね」
 そうする、と答えながら町長がチョコを見下ろす。内部が剥き出しの素体に目を細めた。
「腕は? 一本足りないわよ」
 指摘通り、チョコには右腕しか接続されていない。
「二日やそこらで両方修理できるものか。こちらに来れば物資があるのかと期待していたが、どうも活気の向かう側が予想と違っていた」
「食糧の確保を優先させたのよ。一応、町長さんだもの」
 そう言って胸を叩く町長を、博士は作業を続けて見向きもしない。そのまま話しかける。
「そういえばきみの先祖は超能力者だったそうだな」
「そうらしいわね。口伝によると、地球を包むほどの光の羽を広げて、滅びの輝きを下すこともできたそうよ」
「ほー」
「ふふん」
「もう少し左に寄ってくれ、作業しづらい」
「はいはい」
 町長が大股でスライドする。
「別にきみの足は長くないので無理をしなくていいぞ」
「うるせぃ」
 軽く返しながら、町長がチョコの前髪を摘む。額を表へと出して、見つめながら。
「これってカァールディスを小型化させたようなものよね?」
「そうとも言える。少なくとも動力源は同一だ」
 そう聞いて、町長が笑顔になる。ただ、両眼を除いて。
 瞳は普段同様、切れ長で、威圧するような輝きを保つ。
「環境を食い散らして、自身に適応させてしまうはた迷惑な粒子」
 町長の目が、チョコの髪の水色を捉える。
 付け替えが済んでいないらしく、髪の先端には水色の変色が健在だった。
「この粒子が重力にさえ干渉するというのなら、おのずと見えてくるものはあるんじゃない?」
 目玉が横へと流れるように動き、博士の顔を窺う。
 博士は作業の手を止めないまま、「まぁ推測は立つ」と肯定した。
「それを証明するのが科学者の領分なのだ、が」
「が?」
「興味がない。他に作りたいものがいっぱいあるのでな」
 ホーミングレーザー砲とか、大型ビームマシンガンとか。
 指折り、夢を数える博士の独り言を聞いた町長は、「それはそれで」と小さく頷いた。
「なにしろ老い先短い身だ。時間をムダにはできんよ」
「若返り手術は受けていないの?」
「血液と脾臓を交換しろと? 生憎、私は愛用しているものを手放せない性格でなぁ」
 もちろんお前もだぞ、と博士がチョコの頭を撫でる。
「さてと。ではそろそろ再起動させるぞ」
「わくわく」
「目覚めるのだ、この電撃でー……おや」