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 砂嵐と足並みを合わせるように動く人影があった。
 チョコである。着せられた防砂服が風に煽られてボロ布を纏うように見えるほどにその勢いは増していく。平地から砂漠へと移行してもその足取りに制限を感じさせない。人間の及ぶところのない脚力で自然をねじ伏せる。
 防砂服の奥では、侵食されたままの髪の先端が自然、共鳴するように青く輝いていた。
 そのチョコが足を止めたのは、巨大な影が地平の向こうから到来するのを見てだった。砂を巻き上げるようにしながら、足音を感じさせないそれの様子をチョコの目が捉える。
 規格から外れた形状を誇る巨大ロボットが、砂上を滑って迫ってきていた。
「該当データ、認められず」
 漆黒の巨人は足もとのチョコに一瞥をくれる様子もなく直進していく。邁進する方角に町があることを確かめるようにチョコが振り返る。チョコの動作が一旦停止して、逡巡するような間があった。巻き上がった砂粒がその額と頬を叩くが、チョコの表情には一切の反応がない。
「トモカの捜索を優先。救出後、博士の警護に移行」
 チョコが移動距離も含めて優先順位を決めて、前を向く。そしてすぐ砂の山を蹴った。跳ね上がり、宙に散らばる砂を残してチョコが加速する。その最中、チョコが呟く。
「類似を含むことで相似するデータを一件確認」
 その呟きの続きが語られる前に、チョコはまた別のものと遭遇する。
 今度は、砂漠での発掘に従事する作業車だった。日に焼けた運転手が窓を開けて顔だけを覗かせる。飛来する砂粒が口に入り込み、唾と共に吐き出しながら驚く。
「おぉ? 女の子が一人でいるぞ」
「こんなとこに?」
「おいいるわけないだろ普通のが。ほっとけよ」
 後方の席に控える、及び腰の声もチョコには聞き取れた。が、チョコは意に介さない。
「あーなんだ、もし迷子なら町まで乗っていっても」
「伺いますが、ナガモリトモカと接触したでしょうか」
 リーダー格の男の言葉を遮り、チョコが質問を押し通す。男は頭を掻きながら、「ナガモリ……ああ多分さっきの子だ」と振り向く。チョコは口を噤み、男の発言を待つ。
「あの女の子なら、でかい魚に噛みつかれてロボットと一緒に砂の下へ消えちまったよ」
「魚」
 チョコが呟きながらデータ照合を図る。しかし、該当する敵性怪獣は記録にない。
「その後に少し掘ってみたけど、どうもでかい空洞があるみたいだ。噂はあったけど、ほんとに地下に洞窟でもあるのかもな」
「トモカの反応消失の理由が判明」
 チョコが足もとを見る。履かされた靴の先から親指が飛び出していた。
「俺たちだけじゃどーにもならんから、人手を募ろうと思って町に戻る途中なんだよ」
「理解しました」
 男たちはこのチョコこそが、その人手たり得るとは夢にも思っていない。
「情報提供に感謝します」
 チョコが淡々と礼を述べて移動し始める。リーダー格の男は一応、振り向いて呼び止めようとするもののチョコの勢いと向かい風に煽られて覗けた、その剥き出しの素体を見てようやく理解する。同時に目を見開き、腰が引けそうになった。チョコは振り向かない。
 暫く移動して不自然に崩れた砂山を更に踏み潰した後、チョコが停止する。
「トモカ及びカァールディスが地下空洞に遭難と仮定、救助の方法を検討」
 立ち止まったチョコが応急処置を終えたばかりの右手のひらを見下ろす。それから、存在しない左腕を一瞥する。砂粒に塗れた防砂服と、その下の空洞を見捨てるようにすぐ前を向いた。
「作業効率は著しく低下。トモカ及びカァールディスの発見に要する時間とトモカ生存の可能性は合致せず。別案を検討。トモカ生存の確率の観点に基づき不適当。別案を検討。トモカ生存の確率の観点に基づき不適当」
 チョコが素早い独り言を重ねる。幾つかの案を立て続けに除外した後、
「別案を検討」