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 前回までのあらすじ。
 魚に食われた。もとい、食べられていないけど一緒に地下に落ちた。
 そして現在、地上への帰還を目指している最中におかしなことが起こり始めていた。弄ってもいないのにコクピット内に青い光が走っている。血管に別の血を流し込んで、どくどく潤すように。私がなにかしたわけでもないのに、いきなり反応を示し始めた。
 シャツのお腹の部分を掴んで引っ張られて、前へ出るような。機体と、私自身が引き寄せられているのを感じる。自然、操作もしていないのにカァールディスが前へ一歩踏み出していた。
「上……上から、なにか……」
 呼んでいる。耳鳴りの奥で、ぐにゃぐにゃとしたものが次第に形となる。
 渦巻く水面に、ゆっくり、文字が浮かぶ。
 目玉の裏側に浮かんだそれを、得体の知れない感覚が読み解いた。
「ちょ、こ?」
 その名前を呟いた途端、コクピットが浮く。
 海に浮かぶような優しさはなく、宙へ放り出されるように。
 瞬く間に変形したカァールディスが、自動で飛び出した。旋回して角度を調整した後、地下空洞を覆う砂の天井へと無謀にも突っ込んでいった。声にならない悲鳴を上げて、その暗闇に強制的に付き合わされる。暗雲へ吸い込まれるようにモニターは塞がり、機体が激しく跳ね飛ぶ。しかし、止まらない。掻き分けられるとは思えない砂の量を、すべて、はね除けていく。
 青白い光が、翼から羽根のように散って時折瞬く。綺麗だ、と目を奪われたのも一瞬、コクピットの緩んだ隙間から砂が入り込み始める。ぞぇぇえ、と目を剥いても止められないし、なんだこれと驚愕しながら事態を見守る他なかった。でも、カァールディスは上を目指している。
 どんなに乱暴でも真っ直ぐ突き破っていけば、その先には。
 砂時計の中に押し込められたように、窒息の砂が各所から差し迫る。
 歯を食いしばり、最後の瞬間まで前を睨んでいた。
 そして。
 ぼしゅっと、空気を吹き飛ばすような音と共に景気よく飛び出す。
 空だっ、とモニターを新たに支配したものに目が光った直後、コクピットを埋める砂が口にまで入り込んできた。首の下まで砂の海に浸かっている気分だった。カァールディスは変形を解き、私よりも下手くそに砂漠へと不時着を果たす。その衝撃で今度は首を痛めた。
 何度も噎せて、唾も枯渇するほど乾いた口から砂を吐き出す。地上まであと少し距離があったら生き埋めになるところだった。誰かが計算したわけでもなく、運が良かっただけだ。
 そうして砂に埋まりつつも、復活したモニター越しにその眩さを感じ取る。
「空だ」
 外に戻ってこられた、と蒸し暑さも忘れて喜びが湧く。それから、カァールディスの起動音と共にモニターの景色が変わる。足もとを覗くように確認して、その先に、チョコがいた。
 ぼろぼろの外套を羽織ったチョコが、頭にのったフード越しに私を見つめていた。
「チョコ」
 なんでここに、という思いと復活したことへの明るい感情が交錯する。
 そんな中、駆動音に釣られて目をやる。モニター越しに、右翼が持ち上がるのを見た。勿論私は操縦していない、しかし勝手に動く。その翼の鋭い先端を、足もとのチョコめがけて振り下ろそうとしていることに気づき、慌てて操縦桿を動かす。けれどまったく操作が効かない。
「あ……やめろ、おい、やめろ!」
 渇ききった喉を血で潤すように、鉄の味と共に叫ぶ。
 その叫びと共に、チョコめがけて右翼が砂をかち割った。
 跳ね上がる砂がモニターを埋め尽くす。衝撃がコクピットを縦に揺らした。
 操縦桿を握ったままシートにしがみつく。
 やがて揺れが収まり、チョコの安否を確かめようと慌てて目を向ける。
 チョコは、同じ場所に平然と立っていた。右翼に右手のひらを添えて、軽くいなすように。
 側に生まれた砂の裂け目に、再び、砂が流れていく。
 チョコのかぶるというより頭に載っているだけだった外套のフードが外れる。
 隠れていた髪は、青だった。