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 そう前置きして缶を渡す。受け取った北本はまず缶を上下に振る。中身がちゃぽちゃぽと音を立てるのを聞いてから、口をつけた。間接キスとか今更、指摘する気にもなれない。
 逆ならどぎまぎしただろうけど。
「あれー、もう閉まってるや」
 食堂の出入り口の方から間延びした声が聞こえてくる。ノッポで、ぼんやりとした顔立ちの男が頭を掻いていた。参ったなぁという調子ながら、妙にのんびりとした雰囲気もある。見覚えありまくりだった。男の隣には彼女らしき女性が立っていて、眠そうに目もとを擦っている。
「やっぱりちょっと遅かったね」
「ねー」
「他行くかぁ。どこ行こう」
「じゃあスーパーいこ。スーパー。で、お惣菜のコロッケ的なものを買おう」
「コロッケ的なものかぁ。うん、そうしよう」
 二人は俺たちのいる駐車場と正反対に歩いていったので、こちらに気づかなかった。
 まぁ、知り合いって言っても会って長々と話したのは夏が最後だからなぁ。あのコミュニティと関係ある人たちと、特別な親交はない。集ってなにかしたのも、あの夏一度きりだ。
 だけどあの出会いには大きな意味や、転換があったように思えてならない。
 北本と出会った夏だから、そんな運命めいたものを感じたくなるだけかも知れないけど。
 飲み干したのか、缶から口を離した後、北本がニッと笑う。
「ねぇ、いいとこさがししようぜ」
「は? なにそれ」
「そのままだよ。私とあんたのいいとこを探しあうの」
「なんで?」
「朝のテレビで、いいところを褒めましょうってやってたから」
「なんのニュースよ、それ」
「子供の育て方? 褒めて伸ばせってやつ」
「参考にする意味あんの?」
「私も竹仲もまだ子供みたいなもんでしょ」
「あぁ処女だしな」
「うるさい童貞。私のいいとこ言ってみて」
 こんな流れから唐突に会話が戻る。まぁ俺たちらしいけど。
「じゃあまず、料理が上手くなった」
「うんうん、他には?」
「え、次はお前が言うんだろ? 順番だよ」
「えー、マジッスか。竹仲の、いいとこ……腕の毛が薄い」
「はぁ?」
 北本が俺の上着を捲ってくる。肘まで露出させられて、寒さに鳥肌が立った。その肌を北本が撫でてくる。それを数回続けてから、やっぱりねと北本が頷く。
「うん、つるつる。触り心地いいよね」
「これ、真っ先に思いつくいいとこなわけか?」
 服を伸ばしてから、渋い気持ちになる。いやさぁ、そりゃ、俺自身も特に思いつかないけど。
「まーまー慌てるな、これからもっとあげてくって。はい次は竹仲の番」
催促するように手招きしてくる。咄嗟に思いつかなくて、目を泳がせる。
いや、ほんとはあるんだけどさ。かわいい、とか。でも面と向かって言うのは恥ずかしい。
「や、優しいところ」
「うそくさー」
「お、お前、自分のことなのに嘘臭いとか」
「私のどこが優しいか具体例あげてよ」
「家の手伝いをしてるところ」
「それは当たり前だし」
「えぇ、じゃあなんかさ、日々の接し方の節々に感じるんだよ。北本の優しさ的な暖かさを」
 身振り手振りを交えて適当なことを宣ってみた。勿論、北本はまったく納得しない。
「きみぃ、そんなので大学の面接は大丈夫かね」
「大丈夫だったから受かったんだろ。よし、次は北本の番な」
 終わりそうにないので強引に流した。北本は大して悩まずに答える。
「足の毛が」
「薄いね」
「はい次、竹仲」
 おい、本当にそれだけか。こいつ、次は頭の毛が薄いとか言い出さないだろうな。
「……あ。最近、ちょっと髪が伸びたな」
「好きな女優さんが伸ばしてるから、真似してみた」
 肩にかかっている髪を北本が手ですくう。見せびらかすような仕草だった。
「似合う?」
「うんまぁ」
「うわ、露骨に適当に答えた」
 髪を掴んで、北本が唇を尖らせる。正直に答えただけなんだけどなぁ。
「俺は前ぐらいの髪の長さが好きかな」
「前って?」
「夏の頃の髪型」
 肩ではなく首にかかるぐらいの、北本の髪を手で真似る。北本は今の髪を否定されてか少し渋い顔になって、右足を振り子のように振る。拗ねたかな、と思ったけど機嫌はすぐ直った。