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「コロッケおいしいねぇ」
「ねぇ」
 スーパーからの帰り道、ソウと頷き合う。来るときは手を繋いでいたけど、帰りはコロッケを食べるのに邪魔だからという理由で離ればなれだ。それぐらいの緩さが僕らには丁度いいかなぁ、とか思いながら鼻を啜った。三月の夜は紛れなく冬で、見上げても春はない。
 右手に持つ薄い包み紙は衣の油でべとついていた。営業時間も終わりかけて、売れ残っていたコロッケは既に冷めきっている。でも案外、さくさくした歯ごたえは健在なのだった。
「んまいんまい」
「んまい」
 二人で頷きながらコロッケを食べ終える。残った包み紙はスーパーの袋の端っこに突っ込んだ。スーパーの袋はソウが持っている。僕に持たせると落っことしそうだと言われた。
 ごもっとも。お金を落としたこともあったし。それに今日も落としたものがある。
 スーパーで貰った寿司屋の割引券を部屋に帰る前に落としてしまった。どっちみち、ソウは生ものを好まないから行くか微妙だったわけで、そうなるとまぁいいかなと思う。
それから僕は自分の手を見た。染みた油が指にくっついている。この手を繋ぐべきかなぁと悩む。ソウも似たようなことで葛藤しているのか、左手を見て唸っていた。
 僕たちはしばらく、自分の手を見つめながら夜道を歩いた。駅の側にあるスーパーから歩いて、その途中で食堂の前を通る。今日はそこで晩ご飯を取ろうと思って出かけたけど、僕らが着く頃には既に閉まっていた。昔から僕は間の悪い子と言われていたけど、今は間の悪い大人になってしまったみたいだ。困ったねぇ、と最近またもじゃもじゃになってきた髪を掻く。
 ちょっと伸びるとすぐ、上司に切れって怒られる。明日は床屋でも行こうかな。
 その仕草のついでに顔を上げると、食堂の駐車場に人影を見つけた。行きのときは建物が遮りとなって分からなかったけど、高校生っぽい二人がいる。
っぽいというか、知っている人たちだけど。
 二人で自販機の側に立って、寒いのか震えている。確か女の子の方は食堂で働いているはずだから、中で話せばいいのに。僕は一瞬そう考えたけど、自分の立場に置き換えると、なるほどなぁと思い直した。僕がソウの実家に入るのは嫌みたいなものか。ご両親と対面したら、胃に穴が空いてしまいそうだ。穴は鼻だけで十分。分かるぞ少年、と男の子の方に共感した。
 それはさておき、その男の子と女の子が手を繋いでいたのを見て、僕もそうしようと決めた。
「手でも繋ごうか」
「かぁかぁ」

ソウがカラスの鳴き真似でもするように同意して、油のついた指同士を絡ませた。
「すべっとする」
「ぬるっとしてる」
 言葉の選び方に微妙な差がある。合わせてすべぬるした手は、ちくりとした。
 コロッケの衣がどちらか、或いは両方の手にくっついていたみたいだ。
 そのちくちく具合を楽しみながら、冬の空の下を歩く。
 僕たちは働いていること以外、去年となにも変わっていない。

 僕が働きだしたら、ソウもナントカ堂という店でバイトし始めた。バイト急募と書いてあったので応募したら、裏方の調理担当となって、ラーメンとか炒飯を作っているらしい。そこのまかないでラーメンばっかり食べているから、偶には別のもん食べたい、と言い出したのがそもそも、今日のお出かけの始まりだった。で、そのお出かけもそろそろ終わる。
 町はいつだって見慣れた景色だ。夜の風が吹き、薄い雲は崩れる。民家の光は蛍のように淡く、駅に電車の入る音が本当に少しだけ聞こえてくる。明日の日が昇るときを、聞き分けのいい子供が静かに待っているような雰囲気が町全体を覆っていた。

「帰ったらなにする?」
「んー、テレビ見るか……寝るとか」
「じゃあ僕は両方しようかな」
「お、それ賛成」
 ソウが笑う。ソウはよく寝る。働いていない頃は昼、起きている方が珍しかった。
「困ったもんだ」
「そうだねぇ」