WEB小説 入間人間のウェブ限定小説が読めます。

PAGE1

「チョ コ ヲ ヨ コ セ」
 当然のように居間のこたつに潜りこんでいる宇宙服のちんまいのが、チョコレートを要求してきたのがその日の始まりだった。ちなみにその向かい側には布団を巻いたやつが座っている。
 なんて和めないんだ。
「コ レ ハ ウ チュ ー ジ ン カ ラ ノ ヨ ウ キュ ウ デ ア ル」
 相も変わらず喉に負担のかかりそうな喋り方で、星宮ヤシロが両手を突き出してきた。チョコ? あぁ、今日バレンタインだからか。いや勿論知っていたけど、なんで俺が渡すんだよ。
「今日はチョコをもらえる日と聞いた。さぁよこせ」
 ギブミーチョコレートと手を差し出してくる。誰に吹き込まれたのやら、内容がハロウィンと混ざっている。とりあえずはその要求を無視してこたつの空いている場所に入った。
 右に簀巻き、左に宇宙人モドキ。これで正面に女々さんがやってきたら完璧だな。なにがだ。
 その女々さんがずぼっとこたつの中から飛び出して俺の膝の上に「うをおうおう!」
 後ずさって壁に背中を打ちつけた。ビックリした! 純粋にビックリしたぞ!
 心臓の動悸が激しすぎて言葉が出ない。一方、女々さんはうつぶせに寝転んでままだ。
「女々たんは猫ちゃんだからこたつに潜るなーご」
 媚びた声でタワゴトをほざく。その直後、「あー肌がかさかさに」と頬を撫でて嘆いた。
 じゃあやるなよ。どれだけ前から待ち伏せしていたんだ。
「ふー!」
 毛を逆立てて威嚇してきた。どうやって逆立てているとか、そういうことを深く考えるのは止めておこう。この人にできないことって、大人しくすることと、年相応に振るまうことぐらいだろう。どっちかというと最近、娘よりこの人の方が人外じみていることに気づいた。
「マコきゅーん、おはよーう」
 どがじゃじゃじゃとワニみたいに床を走ってこちらにやってくる。挨拶と行動がまったく噛み合っていない。そのままのしかかるようにじゃれついてくる四十歳(今年で四十一になる)を引きずりながらこたつに入り直す。今度からは入る前に布団をめくって、中を確認しよう。
 この人と出会ってから十ヶ月以上経つが、その行動を予測しきることは未だにできない。
「娘みたいに少しは落ち着いてくださいよ」
 こっちは不動なのに。寝ているんじゃないかというぐらい動かないが、やっと反応した。
「もふ」  いつも通りのスマキンである。しかし冬場になってこうも冷えてくると、ああしていると暖かそうではあるよなぁと、眺める度に思わなくもない。本人は暑くなってきたのか、顔だけ上から出した。中身は当然、従妹のエリオだ。髪の色は、光に透けた雪景色のようだ。

「イトコ、おそよう」
「ん? 別に寝坊してないだろ」
 まだ学校へ行く時間まで大分ある。むしろ早起きした方だ、緊張して。
 なにしろ2月14日だからな。平日でよかったのか、悪かったのか。
「わたしより起きるの遅かったらおそよう」
 勝ち誇ってきた。最近はなにかと競おうとしてくるようになって、得意げな顔が増えた。 「はいはい、えらいえらい」

適当に賞賛してエリオの頭を撫でる。「ん、そーだろそーだろー」と、エリオちゃんもご満悦のようである。ここで反発せず、素直に受け取るのがこいつの美点かもしれない。
 素直すぎる気もして、ちょっと心配ではあるが。悪い人(女々さん)に騙されるぞ。
「ぎぶみー」
 一方、左側ではまだ言っていた。惜しいなぁ、お前の性別が反対だったら余裕だろうに。 「貴様でもいいぞ」

ヤシロの催促の手がエリオに移る。エリオは布団に口もとを埋めながら、ぶんぶんと頭を横に振って拒否する。 「や、やだ」
「エリちゃんはお母さんにくれるのよ。しかも毎年!」
女々さんが割りこんでくる。ついでに俺の横から、無理にこたつに入りこんでくる。狭い。

「今年もくれるかなー?」

「ん」