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 なかなか出てこないようだ。布団の紐をきつく縛りすぎて緩さに欠けているらしい。
 まぁ冬だし、寒いからな。少しでも暖かくしようという意識が働いたんだろう。
 そういう問題か?
「あ、あった」
 エリオの両手が布団から飛び出す。万歳の格好をしてから降りてきた右手には、小さな猫の置物があった。黒い猫で、目は緑色。座って尻尾を揺らしているところだ。
「あれ、ほんとにあるのか」
 受け取りながら目を丸くする。もっと変なものかと思っていたので少し驚いた。
「買ったのか?」
「ん」
 両手を布団の中に戻してからエリオが小さく頷く。ついでに顔も布団にしまった。なぜ。
 黒い猫の表面を撫でながら、お返しになにか必要だろうかと考える。
「貰うことを考えてなかったからな。うぅん、どうしよ」
 今からなにか買ってこようか、と窓の外に目をやると既に日が沈んでいる。
「もふー」
「うーん……」
「た、た、ただぅぃまぁ。ただただ、ただぁーぃうまー」
 悩んでいると、玄関先で歌っている声が聞こえてきた。この後は「クリスマスでも、働く、うきゃきゃー」と続く。寒いのに元気いっぱいだなー、あの人。エリオの話だと一度も風邪を引いたことがないらしい。親父もそんなことを言っていた気がする。謎の抗体でも持っているのだろうか。
 むしろ持っていない方が不自然だけどな。
「とぅどぅいまー」
 唇をすぼめながらのような挨拶に振り向く。挨拶し返そうとして、途中で固まった。
「はいプレゼント。かわいいネコちゃんよー」
「ガオォーン」
「せめて鳴き方の練習ぐらいさせてきてください」
 ヤシロだった。首根っこを掴まれて、本当の猫のように持ち運ばれてくる。
 鳴き方は怪獣だったが。そして見た目は勿論、いつもの宇宙服。
 猫の要素が一片もないじゃないか。ぺっと離されて、床に着地する。
 そこで手も床についてしゃがむ仕草だけが猫のようだった。
「今、家の前でうろうろしてケーキケーキ言っていたからつい」
「つい捕まえないでください」
 そして当然のようにこたつの一角にヤシロが収まる。こら、人の足を蹴るな。
「フ ゥ」
 もぞもぞとこたつにどんどん入っていく。その間、ヘルメットの奥では「さぶ、さぶ」と呟いているのが聞こえる。そしてそのまま中へと完全に潜ってしまった。まぁ、放っておくか。
 ついでに女々さんも「ちゃぶーい」とぶりっ子しながらこたつに潜り込んだ。こっちは頭から潜りこまなかったので安心する。
「お母さんおかえりー」
 状況を察したエリオが頭だけ布団から出して、すてててと走り寄る。そして座り込むと、
「エリオー、ちゅー」
 がばーっと抱きついて娘の頬にちゅーっと吸いつく。娘の方は「あわわ」と照れている。
 捕食のようだ。
「マコ君も、ぢゅー」
「しません」
 そしてこたつの中から「ふぉぉぉ」とか聞こえてくるが、無視した。
「あとケーキ買ってきたわよ」
 女々さんが持っていた包みを掲げる。抱きしめられたままのエリオが「おー」と声を上げる。
「昔は毎年、女々たんがケーキを作ってあげたのよねー」

「へぇー」

 真面目というか、子煩悩というか。良い母親ではあるのだろう。
「すごいだろー」
 と、隣にいるエリオが鼻を高くする。
「なんでお前が得意顔すんの?」

「話は聞かせてもらったぞ!」

 うわ、出てきた。ヘルメットを外して座り直す。解凍が済んだのか、途端に元気になった。
 頬が熱の影響で赤くなって、痒いのかちちちちと指で掻いている。
「ケーキはまだか?」
「お前が聞いているのは自分の欲望だけじゃねえか」
「ケーキ。ケーキモア」
 両手をぱんぱんとあわせて催促してくる。図々しさもここまでくれば堂々としたものだ。
 視線を感じたのか俺の方を向いて、目もとを引き締めた。
「最近、ドーホーがこの地に降り立ったようでな。英気を養わねばならん」
「ドーホー?」

 同胞かな。なるほど、同胞。え、同胞?

「お前の仲間?」
「仲間というのも適切ではないが、まぁ似たようなものと考えて差し支えあるまい」
「姉妹かなにか?」

「ドーホーだと言っているだろう。相変わらず耳垢の詰まった男だな、マコト」

「あ、そ。仲間ねぇ」