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 ぼくたちは皆、それぞれの物語の主人公である。という意見も非常に正しいわけで、まったくその通りなのだけどそれはあくまで、主観に基づく意見だ。誤解してはいけないのが、たとえ自分にとって、主人公が自分しかいないとはいえ、この世に自分だけが生きているわけではない、ということ。主観があれば客観もある。そして客観視というものがこの世の出来事を評価する。そうして主観を省いて見据えれば、ぼくたちの紡ぐ物語は個人の事情が絡み合い、更に大きな流れを形成することが多々ある。その流れの中には必然、時には強引に役割を押しつけられる形で『主人公』が誕生する。今日集ったのは、そういう主人公たちだ。
「……らしい」
 置いてあった簡易紹介文に目を通して、意訳する。
 なぜぼくが受付として占拠投票所みたいな場所で座っていなければいけないのか知らないが、この茶番が終われば元の世界に帰してくれるだろう……多分。一応、ぼくも主人公に分類されているらしく最初にアンケート用紙を渡されて、既に記入して脇の箱に投げ込んである。
 名前を書き込むスペースがないのは助かった。あったらあったで、偽名を書くけど。
 このアンケートは今後の参考にさせていただきますとある。あるのか、今後。
 割り振られた番号があり、ぼくは①らしい。意味は分からない。古い公民館にありそうな安っぽいパイプ椅子と、黄土色の長机に一人ぽつんと座っていると少し厚着をした少年が外からやってきた。外がどこに繋がっているのか、そもそもここがどこかも分からないけれど。
 彼が②らしい。高校生だろうか、雰囲気から大体察する。「あ、ども……」と少年が今ひとつ要領を掴めないまま、といった様子ながら頭を下げて挨拶してくる。アンケート用紙を渡すと机に置いて屈み、「あー? なんだこれ」とぼやきながらも比較的早く書き終えた。
「じゃー、えー、よろしくっす」
「うん」
 高校生が微妙な挨拶を残して去って行く。その去り際、微かに水色の粒子が見えたような気がした。髪からそっと、触れ得ていた残滓が抜け出して宙を遊ぶように舞い、冬の吐息みたいにさらりと大気へ溶けていく。なんだろう、と手を伸ばしてみたけれど、光はぼくの元にやってこなかった。そうした不思議な軌跡を残すこと以外は、普通の高校生だったようだ。
 ぼくの知り合いにはまずいないタイプだ。
 普通で凡庸で。羨ましい限りだった。ぼくが憧れるもの、そのものだった。
 次いで③番がやってくる。今度は少年と女性が肩を並べてやってきた。主人公が二人、そういうのもあるのか。少年の方は女性の方を意識して、どことなく怯えているように感じられた。
 右側の中学生……だろうか。栗色の髪は天然もののようだけど、他も天然仕立てなんだろうか。色々と凄い。包帯が頭と右目の側に巻き付けられて完全に塞いでいる。顔面には深い十時傷が走り、耳と指の付け根には縫い跡まで見える。包帯はともかく、他はシールやファッションではなさそうで、どんな人生を歩んできたのだろうと自分のことを棚に上げて訝しむ。
 左の女性……若く見えるがこちらは中学生より年上だろう。女性の最大の特徴は服の右袖が力なく揺れていることだろうか。どうやら二の腕から下あたりが存在しないらしい。なんともハードボイルドな組み合わせだ。ぼくと地続きの世界に生きている人間と思えない……いやそうでもないかも。よく考えたらぼくも大概、怪我街道まっしぐら、血路往来な人生だし。
 二人にアンケート用紙を渡すと、ぼくを挟むようにして左右に距離を取った。特に少年の方は逃げるようだった。女性の方は冷めた平坦な顔で、それを気に留めることもなくペンを持つ。
 左手にやや過剰な力を入れて、尖った肩と肘が手と一緒に動く。書けないわけではないが、不慣れという印象だ。恐らく右利きで、失ったのも遠い昔の話というわけではないのだろう。ぼくも右腕が動かないので、そのもどかしさは理解できる。少年は指の付け根の縫い跡も苦にならないらしく、早々に書き上げていた。その頬に自嘲めいた笑みを浮かべながら。
 かように仲良しに見えない二人だったが、帰るときは来たとき同様、肩を並べて歩いていった。実は仲良しかもしれない。嘘だけど。外に出ると、二人は一瞬にして光に呑まれて見えなくなるよう、な気がした。
 誰が用意したか知らないストーブで暖を取っていると、④番の人が姿を見せた。今回は知っている人だった。緑色のベレー帽みたいなものをかぶった人で、相手もすぐにこちらに気づいたようだ。「やぁ」と片手をあげて挨拶してくる。どうも、と返すついでにアンケート用紙を渡す。受け取って、さらさらと淀みなくペンを走らせて。