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 考えてみればチョコも無免許で当たり前のように乗っていたな、と今更に気づく。それよりもっと酷いことを行ったので誰も咎めなかったけど、案外平気なのかも、と思ってしまう。
 そのカァールディスに乗り込んでなにをしているかといえば、コンテナの運搬だった。旧世代の資材を倉庫に運び込むという作業を、他のロボットに混じってこなす。他の機体よりも関節の駆動が滑らかで、微調整が利きやすくコンテナの隙間を抜けて奥にも物を運びやすいという理由で、届いたコンテナを優先的に渡される。周りの作業員は、このロボットが中央の土地でなにをしてきたか知らないから平気で頼み事できるのだろう。
 知られれば、敵意や恐れが高まれば。こいつは、きっと。
 というわけで、余計なことは語らないで黙々と作業することにした。
 がっちょんがっきょんと次から次へ荷物整理に動きながら、ふと思う。
 これはテストパイロットではなく、普通のお手伝いではないのか。
「給料は750ジュドル……本気でわけの分からないお金渡されたらどうしよう」
 あの博士なら得体の知れないものを持っていても、なにもおかしくなかった。
 しかし、ロボットを動かしていたらお金が貰えるなんて、遠い日だと思っていたのに。毎日、誰かが予定を作ってくれていた学校での生活が青い波にさらわれて遠くへ消えていく。
 訓練を含めて、誰かと戦うよりは荷物運びの方がずっと向いていると思うけど。
 運んでいる資材は発掘作業の過程で発見されたと聞いた。西の町の地域では地面の下に旧文明の残骸がある。町から少し離れた砂漠地域で発掘を専門に営む人もいるらしい。どれも学校で習ったことないので実際の現場を見学したことはないけれど、私たちが生きるためには過去を食いつぶしていくしか道がないのは知っていた。食料の供給が最優先で、他を量産している時間が足りていない。復興を目指そうにも敵性怪獣は次々にやってきて土地を失う。
 怪獣の数を減らそうにも、下手に藪を突くとこの間みたいに返り討ち。
 多分もう色々と、どうにもならないところまで来ている。
 ただ人がいないと立ち回らないところもあるけど、逆に人数が減少したから生産量が減ってぎこちなくても世の中が回っているのも事実だった。人間のしぶとさ、極まれりだ。
 私たちは一万人で生きることができる。百人で生きることができる。
一人で生きることが、できる。
 八個目のコンテナを奥に積んだところで、ご苦労さんもういいよと無線での連絡が入る。なんのテストになったのやらと思いつつも、指示された位置にカァールディスを戻した。
 それから、下りる前に手足を確認する。水色の侵食は見当たらない。作業中は出力を抑えていたためか、コクピット内が青く発光することもなかった。コクピットの内側を走る、干からびた川、或いは血管のような模様に光が満ちるとき、私やチョコはその身を蝕まれていたように思う。
 あれが火星粒子の活性化ってやつなのだろう。青色の変色を強引に押しつけられて……そういえば大砲を発射した後の地面も青かったけど、あれこそが地球の火星化なのだろうか。
 あの大砲を発射したときも出力全開というわけではないようだし、こいつは、カァールディスは地球を救う力はなくても、地球を台無しにする力なら備えているのかもしれない。なんでそんなものを作った。カァールディスをもし量産したとして、その規格外の出力を発揮して怪獣を駆逐するか、地球が粒子で汚染され尽くすかどちらが早いだろう。そんなことを考えながらコクピットを下りて、倉庫の奥へと向かった。
 緒方博士は倉庫の奥の片隅に研究室を構えている。資材を取りに行くのが面倒だからという理由らしいけど、作業の音がダイレクトに伝わり、日が沈めば筆舌に尽くしがたいほど冷え込むであろう場所をよく選んだものだ。少なくとも壁がなく天井も遠いこの場所を室と感じるのは無理があった。その研究室(仮)で粗末な机を前にして、博士がなにやら格闘している。
 机の上を確認する前に、目についたものがあった。壁に立てかけている木の板に注目する。
「木材なんて珍しいですね」
 そして懐かしい。思わず側に寄って、鼻を擦りつけるように匂いを嗅ぐ。
 土の混じった、乾いた匂いがする。期待するほど郷愁を煽られなかった。
「部品作りに使うのでな」
 こういうの、と博士が机に置いてあったものを掲げる。大きさこそ人間の腕と大差ないけれど、カタツムリの腕部のフレームだった。言葉通り、繋ぎ目や指先まで木で作られている。
 試作品だからか小さくて、義手みたいだ。