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「フレームを木で作成して、欲を言えば装甲部分も木製にしたいねぇ、という要望が来た。あぁ頼んできたのはここの町長だよ。怪獣は植物類を荒らす傾向にないから、木々を育てる方が安定して資材を確保できるのでは、と考えているみたいだな。育てる人材と費用を考えればそこまで悪い考えでもない。今更、旧世界の資源である木材に注目するあたり町長の頭は随分と古くで止まっているかのようだな」
 褒めているのかけなしているのか、いや単に率直に評価しているだけであろう博士が笑う。秘密をいっぱい抱えていそうなのに馬鹿正直、とある種矛盾した人柄である。
「どうせ金属で作ろうと、怪獣にぶん殴られたら一発で折れ曲がるからな」
「まぁ、確かに」
 身も蓋もないけど、むしろそれを推し進めた作りであるのが現状だ。
 どうせ破壊されるなら、怪獣に海水で効果的なダメージを与えればいい。痛み分けを狙って、新鋭機になればなるほど脆くしてあるなんて噂まである。試作品を博士に返す。
「そういえば、チョコは?」
 研究室というぐらいだから、この近くにいるのではないかと思って聞いてみる。
 ここに住み着いてから、日が短いとはいえ会っていない。なんとなく、気にかかった。
「そこ」と博士がコンテナと壁の間を指差す。隙間を覗いてみると、奥の陰に紛れてチョコが座り込んでいた。体育座りのように膝を立てている。そろそろ近寄ってみると、電源……動力源が電気か定かじゃないけど、意識がないように目を瞑ったまま身じろぎしない。眠っているみたいだ。髪の先端は青色の侵食を残したままになっている。
 そして破損した腕部は換装作業の途中なのか、内部を剥き出しにしていた。
 息を呑み、目が離せなくなる。
 そういうのを見ると、チョコがロボットであると実感する。実感して、けれど同時に違和感も抱く。それはチョコの眠り顔があまりに出来すぎているからかもしれない。
 きっと、私よりも安らかな寝顔だ。覗いていたら今にも、目を開きそうだった。
 ……また、新しいあだ名でも考えているのかな。
 あり得ないと思いつつ、そんなことを考えてしまう。
「明日には再起動させるつもりだよ。ということで今、慌てて腕を直しているのだ」
 コンテナの向こう側から博士の説明が聞こえる。チョコの顔をもう一度覗いてから、博士の方へと引き返した。明日に起動したチョコは、ここでどんな生活を送るのだろう。
 それを、見てみたい気持ちが私にあった。
「しかし派手に壊したものだ。仕組みが簡単だから、壊すなら足にしてほしかった」
「はぁ」
 妙なことを愚痴られても反応に困る。カァールディスの装甲を素手で貫き、持ち上げて、叩きつけるチョコの挙動を思い返す。故障は当然だろうけど、やっていることは異常だ。
 どんなエンジンを積めば、それだけの力が出せるのか。
 想像できるのは、私の脇腹と足の裏の同類。
 チョコもまた、カァールディスと同じ動力を搭載しているのだろうか。
「あぁそうだ。町長がきみに会いたがっているぞ」
「えぇ?」
 なんで私? 名指し? と不意を突かれて動揺してしまう。
 ここに来てから日も経っていないのに、自分が把握されていることにも驚きだ。
「会っても特にいいことはないと思うが、会うかね?」
 作業を続けながら博士が確認してくる。わざわざげんなりするような一言を付け足して。
「ないんですか」
「ケチだからな、なにもくれないぞ」
 これチョコの新しい指ー、と人差し指を見せながら言う。見せなくていい。
 人が私に会いたがるとするなら、どれ関連だろう。
 カァールディスのテストパイロットだからか。
 永森船長の娘だからか。
 それとも、この博士の知り合いだからか。
 そのへんをハッキリさせたいという欲が出て、「会ってみます」と判断する。
 で。


「私が町長です」
「……はぁ」
 ふんぞり返っているのは学長だった。いや、学校潰れたから次は町長なのか。
 ウシロ元学長が町長となって以前のように偉そうだった。案内された建物は旧世代を連想させる薄暗くも古臭い外装で、金属部分が剥き出しだ。塔の枠組みだけを真似たような縦長の建築物の三階に、町長室なるものがあった。他の部屋と大差ない程度に煤けたそこには貴重な木製の机と椅子があり、それを使っているのが真っ白な学長さんだった。
足を組んで座り、頬杖をつくようにしながら少し傾いた目もとと口が不敵に曲がっている。
「ようこそ、私の町へ」
 距離を置いたまま歓迎された。町長は相変わらず染み一つなく白い。
「元々は町長で、道楽で学校経営していたのよ」
「そう、なんですか」
 道楽なんて余裕のある物言い、この世界で久しぶりに聞いた気がする。町長が立ち上がり、背後のカーテンを開く。窓から入り込む日の光がまるで、翼を描くように鋭い角度で町長のもとへ訪れた。
「お互い無事でなによりね」
 窓の向こうに映る海面に負けない程度に、町長の笑顔は眩しい。