WEB小説 入間人間のウェブ限定小説が読めます。

PAGE3

 けれどそれは再会を心から喜ぶようなものではなく、決まり切った表情を浮かべているように見える。笑うとはこういうものだ、と訓練して上質に磨かれたそれを披露しているような。
「あの後は」
「あぁ私? 怪獣の出てきた穴を見学してから、そこらへんに転がっていたカタツムリを拝借して帰ってきたのよ。でも参るわよね、カタツムリって長時間の移動ができるほど海水積めないもの、途中で燃料切れて動かなくなったわ」
 質問の続きを読み取って、ぺらぺらと語ってくれた。
 確かにカタツムリは稼働時間に優れている機体ではない。カァールディスでもなかなかに時間のかかる距離を走り抜けるほどの蓄えは不可能だろう。じゃあどうやって今、ここにいるのか。私の疑問に応えるように町長が太ももを軽く叩く。自前の足で走ってきた、ということだろうか。チョコじゃないんだから、人間に可能な範囲で超人をやっていてほしい。
「それと生き残りがいないかも確認してきたの。一応、学長だもの」
 聞いて、耳から心臓へ太い線が伸びる。その線が胸をぎゅっと縛り、縮める。
「いましたか?」
 山百合の怒った顔を思い出す。手首の脈拍が加速していくのが分かる。
「だぁれもいなかった。少なくとも学校にいた連中は全滅ね」
 さして残念さも浮かべず、平然と言い放つ。
 脈が増す。走り抜けている最中にゴールだけが取り除かれてしまったように、空回りする。
 分かっていたことでも、全滅なんて響きのいい言葉ではない。
「ただ気になるのは、」
 町長が足を組み替えて、立てた人差し指を振り回しながらなにかを言おうとする。
 しかし笑顔のまま町長は停止して、目が左右に泳ぐ。
「……気になるのは?」
「んー……いや、それはいいわ。それよりトモカちゃん、あなたに頼みがあるの」
 実に思わせぶりに打ち切って話題を変えてきた。どうして大人はこんなのばかりなんだ。
「砂漠の発掘調査に参加してほしいのよ」
 常識のなさそうな町長にしては、地に足の着いたお願いだった。
 私に参加を希望するということは当然、暫定的な相方への期待が強いということ。
「カァールディスで、ですか」
 あいつで地面に穴を空けるのはちょっとまずいですよ絶対、と手を横に振る。
 またあんな青色の巨人が出てきたらどうするのだ。
 町長がそんな私を見て、肩を揺する。
「なにもあの機体の大砲で地面に穴を空けろとは言わないわ。ただ作業中に怪獣が寄ってきたら追い返すなり退治するなりしてほしい……と、そういうことをお願いしたいの」
 それ発掘作業じゃないじゃん、と内心で呆れる。
 護衛というか、用心棒というか。でも戦闘になったら、と俯いてしまう。
 いやそもそも、侵食が進んだらどうなるとか肝心の説明がなかったぞ。
 どうなるんだ? 乗っ取られて粒子の一部……一部? それも、なんだか変な表現だ。
 頭を捻ってしまう。こんな得体の知れない恐怖と同居しないといけないのは、なんでだ。
 どうして、私なんだ。
「あら? また思春期系の悩み?」
 この人がそう言うと、どことなく小馬鹿にしているような感覚が混じる。
 ただ町長の声は、そうした嘲りすらも含めて懐かしさに浸っているようにも思えた。
「大した悩みじゃないですけど……他の成績が優秀な生徒ではダメだったのかな、とか」
 その場合だと、私が死んでいたのだろうけど。
 それでも。今。なにも、背負わなくてよかったと思えば、少しばかりは心が揺らぐ。
「ダメよ。その成績を考慮してあなたが選ばれたのだから」
 成績と言われても、優秀なのはただ一点のみ。本当に、それだけなのだ。
「肺活量とロボットに乗ることって関係ないような」
 そもそも、今考えるとあれはなんの試験だったのだろう。一度きりだし、特別に訓練したわけでもなく。急遽実施されたのは、緒方博士の意思が絡んでいたのか。
「あら? 博士から聞いてないの?」
「聞きそびれました」
「じゃあ私もおしえなーい」
 町長がおどけて言葉の尻尾を引っ込める。本当に、なんなのだろう。
 この間の博士の説明で色々と判明したかと思えば、まだ、目の前は不透明だ。
「というわけでよろしくね」
「参加したらなにかくれますか?」
 話がついたとばかりに背を向けそうな町長に窺ってみる。博士の言葉を思い出して、このあたりを先に聞いておかないと有耶無耶になってただ働きになるのではという懸念があった。
 町長が、「そうねぇ」と顎に指を添える。
「発掘したものの中で欲しいものがあれば優先的に譲るわ。お金が欲しいならそれを売って生計立ててもいいし、うわぁ夢が広がるぅ」
 町長の軽々しい発言はさておき、優先的に、という響きは悪くない。
 発掘された過去の文明。そこに眠る未知の遺産。
 砂漠に埋もれた秘宝を求めて、なんて浪漫だ。海底の宝なんていうのも大好きだ。
 こんな世界だ、大げさに夢を見ても、誰も笑わない。
 笑い声が届かないほど、人は遠く、少ない。
「ま、大抵は鉄屑未満の加工も難しいものしか出てこないけど」
 ははん、と町長が意地悪くも楽しげに笑い飛ばす。
 やっぱりケチだった。