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「いやぁ驚きましたよ」
「だろうな」
「なんかバカづきしちゃって。見てくださいよこの景品」
 そっちかよ。
 抱きかかえているパチンコの景品を嬉々として見せながら、秘書がベッドの脇の椅子に腰かける。大柄な秘書の尻を受け止めると、パイプ椅子が小さな悲鳴をあげた。椅子が秘書の下半身に埋もれて、土台に見合わない大きなぬいぐるみを無理に置いたように見える。
「それとそちらにも驚きました」
「あ、やっと?」
「目を離すといつも怪我していますなぁ」
「まったくだ」
 これで目玉以外はくっついていて死にもしていないのが不思議でならない。
「そのお陰で確変中の台から離れられなくて迎えに遅刻したのもなかったことになりました」
「……そういう正直なところ、いいと思う」
 腹立つけど、すっきりしていい。俺の周りには平気な顔で嘘つくやつばかりだから、腹の中になにかを溜め込まない、こういう大人の方が相手にするとかえって心安らいだ。
 しかし大怪我して見舞いに来てくれるのが、両親と友人を差し置いて中年のおじさんか。
 知り合いの美少女も俺の身を心配してくれないしなぁ。したらそれはそれで怖いしなぁ。
 なんだか、生き方を少し間違えた気がしないでもない。
「………………………………………」
 気を抜くと、身体のそこかしこが痛む。心はびちゃあっと、胸の奥で潰れている。
 黒い台の上に潰れた心が伸びて、取り留めもなく。
 そういうとき、自分はなんで生きているんだろうという気にさえなった。
 音楽ホールで化け物みたいな連中に襲われて、いつものように大怪我を負ってからまだ五時間ほどしか経っていない。運び込まれた先は骨格標本に静かに見守られる狭い部屋。粗末なベッドに、薄いクリーム色の壁。目を瞑るとどこからか、空気の泡の生まれる音がした。
 俺を運んできたトンボという男……女? 性別不詳のそいつは、この部屋の主に掃除を命じられて嬉々とするようにこなしている。どうやら、綺麗好きというか潔癖症らしい。
 以前に廃屋で出会ってから、またこうして再会するとは。人の縁とは、なんだろう。
 ……友人が嫌いなやつにそそのかされて敵に回るのも、運命なんだろうか。
「これからどうします?」
 仰々しく巻かれた包帯を眺めながら秘書が尋ねてくる。
 どうしますもなにも、すぐに動けるような状態ではない。
 せっかく組織を動かし始めた矢先に停滞するのは、かーなーり頂けないのだが。
「怪我がごまかせるようになるまでは活動休止。その後は……どうなったんだあの歌手」
 殺されている可能性もある。ただ生きているなら、なんとか接触を図って、始祖の血統というものを売り出していかないといけない。
 この世界は昔、一度滅びたという。
 その中で生き残った者は今の時代に始祖と呼ばれて、そして、その血を継ぐ者がいる。正確には始祖により近い血統の者たちがいて、そいつらの協力を仰ごうと考えていた。
 予期せぬ事故のようなものに遭ったが、その路線を諦めるつもりはない。
 そう、諦めはしない。たとえ友人が敵に回っても、どれだけ傷を増やしても。
 俺は、俺の願いを叶えるために生きる。
 ベッドに投げ出した身に熱が籠もるのを感じながら、ゆっくり、息を吐いた。
「他の始祖も、簡単に見つかればいいのにな……」
 それこそ、俺がそういうものであったら楽なのに。
 いいよなぁ、と捨て去ったはずの自分のなにかが呻く。
 始まりの血を引くモノなんて、字面だけでも最高じゃないか。


「麻衣さん、起きてますか?」