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 噴き上がった砂が元に収まるより早く動き出すそれは、丘が流動するようだった。
 横に何十メートルとあるのだろう。黄土色の壁が揺れ動き、引きずられるように地表を薙ぐ。巻きあがる砂の遙か向こうに見える、頭部と思しき部位の丸みとその口の形状から、私の頭はそれを魚と判断する。
「……魚ぁ?」
 自分の判断を訝しみながらも、地下より現れたそれを見定める。
 砂の海を悠然と泳ぐ魚が、その幅広い胴体で津波を引き起こす。暢気に観察していた頭にゾッと、寒気が走る。流れ落ちた砂が丘のそれや岩と重なり、静観していられない状況を生み出す。カァールディスに乗る私はともかく、作業員はどうだろうと若干慌てて確認する。
 作業員たちはひぇぇぇと抱きつきあって、作業車の上で縮み上がっていた。
 下手に逃げるよりは、高い場所にいる方が砂の流れに巻き込まれなくて安全と判断したのだろう。海上都市に暮らす人たちよりも危機に慣れているのか、判断力が感じられた。
 とはいえ同時に生まれる砂嵐に呑まれるのを防ぐべく、カァールディスを前面に持っていく。防護壁となりながら、とにかくこの第一波を防ぐよう翼を広げた。歪んだコクピットの隙間から砂が入ってくるかと危惧したけれど幸い、やってくるのは衝撃波ぐらいだった。
 このまま勢いに負けて転んだら後ろの連中潰すことになるなと考えれば、必死にもなった。
 ぐらぐら、機体が揺らいで船を思い出す。
 昔は迂闊に逃げられないからと、怪獣の嫌いな海の上で生活した時期もあったのだ。
 やがて熱風を含む嵐が過ぎ去り、魚もある程度の距離を開けた地点に落ち着く。
 振り向いて作業員たちの安否を確認するべく、ハッチを開いて外の声を聞いた。
「大丈夫でしたか?」
 頭を砂まみれにした作業員の一人が、腕を振る。
「助かったよ、あーっと」
「永森です」
「そうそう、お嬢さん。なんだ随分と若いなー。うちの娘と同じくらいか」
 思いっきり名前を無視された。名乗り損に唇を噛んでいると、作業員が腕を振って叫ぶ。
「あっちの退治も早々に頼むわー」
「退治って、言っても」
 パンチとキックでどうにかなる相手だろうか。以前に遭遇したワニ型の怪獣と比べても圧倒的な大きさを誇る。右翼に搭載された大砲も取り外されてしまっているし、武装がないのだ。
 それに巨大魚は砂を掻き分けて泳ぎ回ってはいるけど、明確にこちらへ向かってくる様子もない。今のところカァールディスが無反応なので、もしかするとこの魚は敵性怪獣ではないのかもしれない。
 純地球産の魚なら、人間を無視して泳ぎ回っているのも納得だ。
 しかし、毎日飽きるほど魚ばかり食べている私たちだけど、あんな大きいのには遭遇したことがない。人が少なくなった世界で、広々とした地球で、新たな生命が生まれているのかも。
 砂が入り込まないよう、コクピットを閉じる。
「うーん……」
 距離を取って注意すれば、やはりこちらに害となる行動は取ってこない。
 敵意はなさそうだけど、魚が活発に動いている。作業用の長い杭が刺さったから? それもあるだろうけど、他にもなにか行動に意図を感じる。なんだろう、と遠目に眺めていると。
 ふと、それに気づく。
「……頭に、なにか刺さっている?」
 薄茶色い砂魚の鱗とは別に、なにか真っ黒いものが突き刺さっている。ように見える。
 なにしろ魚自体が大きいので、その些細な出っ張りが見間違いかとも思ってしまう。目を凝らして、派手に動く魚の頭を目で追って、間違っていないと確信する。なにか刺さってる。
 ひょっとして、あれが邪魔だから暴れているのかな。いやまさか、と首を捻っていると砂魚は派手に砂に埋もれる。あ、帰るのかなと思ったら、そのまま潜行して走り回り、そして先程のように跳ね上がって尾っぽを振り乱した勢いで大きく、頭を振った。
 その動きで隆起した砂の固まりと共に、魚の頭部からすっぽ抜けていったものが見える。