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「そうだ、空気ってどうなってるんだろう」
 砂漠の地下の空洞を進みながら、少し遅れて疑問に行き着く。元々に存在していた場所が砂で埋まったのだとするなら、取り残された空気しかないのか。そうでないなら、もしも循環しているなら、どこかが地上と繋がっているわけで脱出の芽も出てくる。
「そう上手くいかないだろうけど……」
 この星の惨状を振り返れば、楽観的な予測なんて無意味なのが分かる。でもそれぐらいの希望はないと本当に打つ手がなくなる。砂の檻は脆く、儚く、そして砕けない。
 しかしそれでも前へ歩き、大して絶望していない自分がいた。
 恐怖が麻痺しているせいか。それもあるだろうけど、もう一つ。
 この超常の可能性を秘めたロボットと一緒だからだろうか。
 こいつがなりふり構わなくなったら、とんでもないことになるような。
 心の底、濁った水面の奥でそんな予感が泡を噴いては消えていく。その泡の弾ける音に導かれるように、別の音が急降下してくるのを気づく。見上げた瞬間、粉末めいた砂の流れがやってきていた。慌てて飛び退く。落下した砂の塊が弾けて、小規模な砂嵐を見舞ってきた。
 すぐに過ぎ去るそれが、ハッチの隙間からコクピットへと入り込む。その歪み具合に顔が渋くなるのを感じた。こんな調子でよく、落下時にコクピットが砂で埋もれなかったものだ。
 砂の出所を見上げる。天井が時折崩れてくるみたいだ。まさに土砂降り。
 前より上を見て歩いた方が安全だった。上空からの攻撃は苦手だなぁと感じる。なにしろあまり訓練の経験がない。空を飛ぶ敵性怪獣は今のところ確認されていないこともあった。
 鳥の育たない世界から、あいつらはやってきているのかもしれなかった。
 少し歩いて振り向くと、落ちてきた砂でできた小さな山がもう、半ば崩れている。地面を形作る砂と紛れて区別がつきづらい。落下の衝撃は凄まじく、けれどそれは一瞬。あっという間に平面に消える。
 人の生き死にのようだった。
 関節が砂を噛んで、歩く度に不愉快な摩擦音を立てる。無事に帰ることができたらオーバーホールは必至だ。動かしていて特に重く感じるのは右足で、操作と反応に一拍の遅れがあった。それでも動いている内はいいけど、機能が停止したら私まで一緒に終わりだ。
 土の下に還る、とはまたちょっと違うよねぇこれ。
 しかし殺風景な場所だ、と歩いていて気が滅入る。
 砂の流れる音がそこかしこから聞こえて、残るは機械の足音。
 地平に生物の息づかいはなく、砂時計の中にでも放り込まれたみたいだ。最初に想像したとおりに元は地表に出ていたのならその痕跡ぐらいありそうなものなのに、見えるのは砂と今にも崩れそうな細長い岩ばかり。この砂がすべて、埋めてしまったのだろうか。
 独り言も減り、黙々と進む。自然、灯りの強まっている方を目指していた。光の正体が不思議な岩片とは分かっているけどアテもないので、目印になるそれを追ってしまう。地上に繋がらないと知りながら光を追う私は、さながら羽虫だ。
 空気のことを意識してから、気分的なものだろうけど少しの息苦しさを感じる。砂の柱がまるで私の肺の奥まで流れ込むようだ。薄暗さと同化した岩壁に額をぶつけるような、窮屈さと痛みを錯覚する。感覚の大半が尻込みして後ろ向きなものとなっていた。
 そりゃあよくない、と自発的に切り替えようと顔を上げて、何度もまばたきする。
 唇の上下を丁寧に重ねて、深呼吸。一つ一つ、自分を調整していく。
「誰が言ったんだったか……」
 時間で解決するのは後ろ向きな問題だけだと。今もそうだ。
 ここでなにもせず死ねばたくさんの問題から解き放たれるけど、生きることができない。
 生きていないのは、きっと後ろ向き。
 そして生きるというのは間違いなく前向きだ。それだけは信じる。
「だからー、私はー」
 砂が混じったように声が掠れる。咳払いしてから、操縦桿を強く握って。
 どうせ誰もいないし、むしろ反応して出てきてくれるなら歓迎するくらいだ。
 前を向いて、陽気に、歌う。