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「きみたちへの手紙を預かってきたぞ」
 ヘイヘイと手招きしている変な男は通り往く皆様に目を逸らされて、無視されてと散々だったので僕は他人事ではないと大いに同情してその男に近寄っていくのだった。
嘘だけど。
 当たり前のように僕も通りすぎようとする。しかしその男、実に大柄で熊のようなそれの腕が僕の脇をがっしと掴む。引き留めるにしても他に手を伸ばす場所がいくらでもあるだろうに、なぜそのような柔い急所的な部位を狙うのか。身体を捻って逃げたらちぎられそうだ。
 やむなく立ち止まると、大柄な男が「よぉよぉよぉ」と肩を叩いて歓迎してくる。
 身体は熊だが顔つきは狐のようだった。目が細く、口もとが鋭い。日焼けの跡がくっきりとして、よれた白衣という格好も含めて郵便局員ではないようだ。その雰囲気から、町の人間ではないとすぐ感じた。この町の連中はもっと辛気くさい。
「どうだ手紙、読んでみないか。タイムマシンで運んできたんだぞ」
 変な男が脇をぐいぐい引っ張ってくる。いや脇ってそこまで引っ張れるものじゃないだろう。
 痛し、と顔をしかめていてもこちらのそうした反応に無頓着なのか、まったく手心がない。
 取りあえず付き合っていられないのでお断りを入れることにする。
「すいません、ファンキーな彼女がお家で待っているんで」
 若干焦っていたのでラブリーと言おうとして間違えた。
「おぉそれは丁度いい。タイムマシンで帰れば待たせることもないぞ、送ろうか?」
「………………………………………」
 一瞬、そりゃあ確かになんて思ってしまった。しかしそれは前提が大問題だ。
「タイムマシンなんて仰いますけど、そいつはどちらに?」
 なんだかんだと話に乗るような形になっていることは大いに不本意だが、脇の安全の確保が第一だった。脇が危ない。ソードマスターじゃないから新しい脇などという概念もないので、自分の身体は大事にしないといけなかった。右腕はともかく、脇が動かなくなったら困る。
 脇が動かなくなるってなに。
「こいつだ、目の前にあるじゃないか」
 変な男が意気揚々と指差してご紹介してくれたのは、軽トラだった。
 軽トラだ。
 多分、ひっくり返してもどこまで行っても時速140キロを出しても軽トラだ。
「………………………………………」
「やはり言葉もないか」
 僕は言葉もなく冷ややかに見つめたつもりだが、変な男はそれを無言の感激と捉えたらしい。
 その過剰な前向きさは、未来へ前のめりという感じだった。
「こいつの秘密は友人にしか明かさないことにしている。さぁきみとぼくは今からおともだち」
 変な男が握手を求めて右手を差し出してくる。僕はつい、未だ消えない癖のように右腕を上げようとして、失敗する。痛みこそないけれど、右腕の重みのようなものは指の付け根に感じ取れる。そこまでは薄く繋がっているみたいで、でもそれ以上はどうにもならない。
「すいません、腕が少し」
「ん、そうなのか?」
 変な男は気を遣うどころか、物珍しそうに顔を近づけてまじまじと右腕を観察してくる。見てなにか分かるものでもないと思うが、新鮮な反応ではあった。しかし動かない腕なんて見て面白いものだろうか。疑問に思っていると面白くはなかったらしく、変な男が顔を引っ込める。
「きみの名前を言ってみろ。預かってきた手紙を探さないといかん」
「……名字だけでいいですか?」
 町中での英会話教室への勧誘より怪しいなぁと思いつつ、名字だけ教えてみた。
 本名か今の名か。一体、どっちを名乗れば良かったのだろう。
 変な男が軽トラの荷台を漁り始める。白衣の色と相まって袋を背中いっぱいに担いだサンタに見えた。やなサンタだ。その嫌なサンタこと変な男が振り返って僕に尋ねる。
「1985年と2045年の手紙、どっちがいい?」
「……年数になにか意味が?」