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「しまむらが、いないように……いるのに?」
「そうそう」
「え、それ難しくない?」
「んーまー、そうですな」
 安達の肩をぽーんと叩く。
「がんばって」
「えー……」
 安達が目を細める。面倒そうにしつつも、期待して待っているとやむなくといったように鞄を取り、立ち上がる。そう来なくちゃ、と嬉々としながら後に続いた。
 二人で体育館の外に出る。壁沿いに回り込んで、教師に見つからないように正門を目指した。そうして建物の影が途切れて、日の下に出たところで頭上を仰ぎ見る。
「わあ……」
 耳鳴りと共に訪れる、白雲を運ぶ青い流れ。
 すてきな青空だった。
 ある漫画を読んで以来、よく心の中でそう呟くようになった。
 こんな日は上を向いて歩いていきたいものだけど、今日は安達を見ないといけない。距離を取りながらじぃっとその背中を目で追う。
 少し猫背だな。歩き方もいつもより小ぶりで、なんというか、ひたひた歩いている感じ。不良らしさはない。でも平日の昼間から外を歩くことに慣れてはいるようだった。
 その安達が振り向く。はーいと手を振ってみる。小さく振り返してきた。また前を向く。
 とぼとぼ歩く。ところで安達は自転車通学じゃなかっただろうか。
 安達がちょいちょいと振り向いて、その度に目が合う。わたしを無視しきれていない。やはり難しいみたいだった。そういうことを何度か繰り返したところで、安達が立ち止まる。
 わたしが追いつくのを待ってから、降参してきた。
「あー……無理」
「えー」
 その代わり、と安達が腕の動きで自分の横を示す。
「一緒に歩かない?」
 そう誘う安達の目が横に逃げながら、けれど同時に可愛らしさを滲ませるのはなぜだろう。
 わたしは少しだけ考えて、空を見上げて。
 どちらの方がいいかと、結論する。
「そうしようか」
 観察はお終い、と大またで隣に並ぶ。そのまま安達と昼の町を歩き出す。
 さて、どこへ行こう?
 まるで横断歩道の白い部分をずっと踏んで歩き続けるように、心が跳ねる。
「なんていうか……退屈」
「え?」
 安達は前を向いたままだ。
「一人で歩いて、ぼぅっとして、退屈だなぁって思ってる」
 眺める安達の顔から受ける印象そのままを説明してくれる。それが、独りでいるときの安達を語ったものであると、少し遅れて気づいた。話すことを、なんとか考えてくれたらしい。
「それだけだよ」
 これでいい? と安達の目が尋ねていた。
 いいよ、と許す。
 何様だろうと思ってしまった自分は、少し浮かれていた。
「そっか」
 氷の隙間から水がこぼれるように、安達が内面を吐露するのは珍しいのだった。
 訪れる温度の変化に、軽い身震いを覚えながらもしっかりと受け止めて、そして。
 前を向いて、歩いていこうって気になる。
「………………………………………」
 二人で歩くのは退屈じゃないのだろうか。
 安達の淡泊な横顔は、なかなか心情を悟らせない。
 だからその内、本人に聞いてみようと思った。


 そして、翌日。
 わたしたちは変わらず体育館の二階にいた。
 居心地の良い場所。心が、柔らかいものに沈んでいく感覚。
 ぱっと思いついた聖域という言葉の大げさな響きに、独り笑う。