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 珍しく女々たん(50)が朝から動き回っていた。休みの日は娘かエリオが起こしに行かないと昼近くまで寝ているのだが、今日は自主的に起床して庭で準備をしている。
 ビニールプールの用意だった。
 それが相応しいくらいには、今日も暑い。
 上を向くと、首筋を光と汗が走るようだった。
 用意を終えた女々たん(50)が早速水着に着替えて、プールの端からハグの真似をする。
 孫娘が来るのを心待ちにしているようだ。
 さながら水辺に潜んで獲物を待つ野生動物の如しである。
 その娘が水着姿で玄関へとやってくる。女々たん(50)を見つけて、大きく手を上げた。
「きゅてきゅてー」
「うほほー」
 娘が女々たん(50)の若干気持ち悪いお誘いに乗って駆け出す。
「わー」
 そしてその後ろに続こうとする真っ白いやつ。見た瞬間、「待て待て待て」脇の下に手を入れて持ち上げた。持ち上げられたそいつはしばらく宙をじたばた走っていたが、前に進まないことに気づいて振り向く。動くと口もとのあたりからスイカの香りがした。
「なにをする」
「お前がなにをしてるか」
 素っ裸で外に走っていこうとしたヤシロが「む?」と首を傾げる。
「ぷーるは風呂のようなものだと小さいのが言っていたぞ」
 風呂は服を脱ぐものだ、とヤシロがやや得意げに言う。そうね、うん、と目が泳ぐ。
 脱がないで入ってたのが家に一人いるからなぁ。
「いやまぁなんだ……水着は?」
「そんなものはない」
「だろうな……」
「みずぎとはなんだ?」
 だろうな、ともう一度思った。
「娘が来てるようなやつ」
 ああいうのよ、と今まさに女々たん(50)に抱きつかれて水飛沫と共にわきゃわきゃしている娘を顎で指す。ヤシロはじーっとそれを眺めてから「ない」と今度は胸を張った。張るな。
 凹凸が一切なく、白いはんぺんのような胴である。
「外だからな……裸で遊ばせておくのも、あれだし」
 一応こんなのでも性別は女だ。……多分。いや女の子? 年下なのか?
 なにもかも謎な生き物だが現状の外見は幼稚園児あたりである。無碍に扱えない。
 それにこのような幼子を裸ではしゃがせていたらご近所から変な家に見られかねない。いやもう遅いだろうけど。娘の水着なんて何着もないし、エリオの水着なんて着られるはずもなく。
「仕方ない」
 そのまま運ぶ。わざわざ買いに行くのも面倒だし、なんとかしよう。
 奥の衣装部屋へ向かってからヤシロを下ろす。衣装部屋は明かりを落としていることが多く、カーテンも閉じられているために薄暗い。埃を拭くんだ空気が薄い靄として見えるようだった。
 その揺らぎの向こう、微かな暗がりの中で輝くヤシロの瞳は、目玉以外のなにかに映る。
 なにもないのに、淀みなく、ただ光る。
 こいつは本当にその目で世界を捉えているのだろうか。
 多くの仕草が、他人の真似事に見える。
 「おい早くしろ」
 ヤシロが小さい拳を振って催促する。
「分かった分かった」
 そもそもなんでお前はこんなに、この家に馴染んでいるんだ。
 胸周りをタオルでくるんで結び、下は短パンを履かせた。まぁこれでいいだろう。
 そうした格好で腰に手を当てていると、ヤシロは端正な顔立ちの少年のようでもあった。