WEB小説 入間人間のウェブ限定小説が読めます。

PAGE1



「好きな食べ物はあるのかな?」
「えっとですねー、ハンバーグとか、海老フライとか」
「あはははは」
 笑うとこあったかな、とカナが首を傾げる。
 岩谷カナは大学六年生という負しか感じない所属から抜け出して、陶芸家の卵となっていた。その卵は山から下りて、町でてこてこ歩いている。頭にはいつも通り、研修中の名札が髪飾りの代わりとなっていた。並ぶ相手は、新城雅という女性だった。
金糸のような髪が印象的な、大体の人間から見て美女に該当する女性である。カナから見てもそう感じる。ほけーっと見上げる。ちなみにカナと同い年であるが、傍から見ていて誰もそうは思わないだろう。二人は駅の近くを歩いて見つけたファミレスに入る。
その日、カナは新城雅に呼び出されたのだった。
なんで電話番号知ってるのかなー、とカナは少し不思議だった。
 二人は案内された席に向かい合って座る。新城雅は間違いなく大人だが、カナは子供にしか間違えられない。二人はカナの感覚としては少し前に起きた事件で知り合った……「あれ、知り合ったのは事件関係なかったかな」ないかもしれないなー、とカナが思い出す。床屋さんに連れて行かれて、美容院だっけ、つまりギャッピーだな。ギャッピーがきっかけだ、とカナが納得する。
 その思考に独り言が混じる様子を、新城雅はおかしそうに眺めている。
「君の先生はお元気?」
「あ、はい。ししょーは元気いっぱいに野山を駆け巡ってます」
 実際、カナの師事する先生はすこぶる元気だった。寡黙だけど行動的でもある。暇さえあれば山に粘土を掘りに行っている。カナも一度目は同行したが、本当に、まったく、まるで役に立たないと太鼓判を押されたうえで留守番を命じられるようになった。
「ところであのー、本日はなんのご用でしょうか」
 カナが上目遣いで尋ねる。
「言ったじゃないか。ご飯でも食べようって」
「言いましたけど……それだけ?」
 そうだよ、と新城雅が窓の方に目をやる。立体駐車場と横断歩道しか見えなかった。
「他に君に頼んでも、なにもできそうもないし」
「どぅわははは」
 正しい物の見方だった。
「えーそれでー……なんであたし?」
 笑ったり縮こまったりとカナは忙しい。新城雅は、そんなカナの様子を楽しむようだった。
「なんでって、君を気に入っているからだよ」
 新城雅が微笑みながら言う。笑うとお兄さんに似てるなー、とカナはひっそり思った。
「そ、そうっすか」
 え、どこを? と首を傾げつつもどへへと愛想笑いも浮かべる。
「君は悪意がない」
 新城雅が微笑んだまま理由を述べる。
「びっくりするくらい抵抗もできないし、人になにかしようという気もない。度胸もない」
「ぐわははは」
 見透かされていた。
「そういう生き物に癒やされたくなる。そんな時もあるのさ」
 新城雅はそう言って、溜息を軽くこぼす。カナは数秒考えて結論を出す。
「なるほど、猫カフェみたいなものですな」
「ま、それでいいよ」
 カナのいい加減な発言を、新城雅はむしろ求めているようだった。


「映画でも観に行かない?」
 ファミレスを出てから、新城雅がカナを次に誘う。カナは目をぱちくりさせる。
 ぱちぱちしていたら、目にゴミが入って「ノォォォ」とごしごし指で擦る。
 今日は風が強い。そして6月には似つかわしくないほど、晴れ晴れとしていた。
「どうかしたのかな?」
「ほんとーに、あたしのことお気に入りなんですね」
 そんな風に誘われること自体、久しぶりだったのでカナにとっても新鮮だった。
 新城雅は一度目を泳がせた後、悪戯を思いついたようににやーっとする。そして、カナの細い腕を取り自分の腕と絡める。カナは経験のない出来事にいきなり直面して面食らう。
「ほらね」
 言葉が嘘でないと、新城雅が行動で示す。
 カナは戸惑いながら、組んだ腕を見て、「あうぇうぇ」戸惑いを重ねる。
 こういうのには、慣れていなかった。
 でもその慌てぶりを喜ぶ新城雅を見ていると、カナも少しだけ、いいかなと思うのだった。


「うーむ」
「うーん?」