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「わぁ、ねこ? だぁ」
「猫ちゃん? ねぇ」
 紹介されたそれは皆様の笑顔に疑問符のくっつく存在だった。
 猫と判断できるぎりぎりの輪郭と色合い、そして外見である。猫っぽいんだけど、こう、線がいい加減にすぎる。太い部分があったり、繋がっているのか怪しいくらい適当だったり。
 クレヨンで力強く押したような線が目立つので、うん、まぁ、怪しい。
「二日だけ泊まりたいんだってさ」
 紹介された長田君は全員を一瞥してから尻尾らしきものを左右に振る。
「やちーのともだち?」
「いや全然」
 食卓に収まりながらヤシロが即否定する。「ふーん」と言いつつ、娘の目は好奇心に輝く。
「イトコがまた変なのを拾ってきた」
 一方、見た目変なのはぷんぷんしている。
「またってなによ」
「ん」
 これ、とエリオが変なのを指差す。変なのはぺたこんぺたこんとご飯を盛る手を止めて、「む?」とこちらを見た。こいつは勝手に居着いただけなのに。変なのは少し固まっていたが、ご飯の山を整えててってこと席に戻っていった。こいつがいること前提で食事の量が計算されているのも考えてみると妙な話である。
 そのヤシロが「んまいんまい」と誰も待たずに食べ始めるのを、ぼけーっと見届ける。
「うちはイトコを飼うのでていっぱいです。返してらっしゃい」
「ほぅ」
 頬を手で包んでむにょむにょ潰す。「ほほふー」となに言っているのか分からないので緩める。
「とーわ家のリーダーはこのエリオさんだし。リーダーの言うことを聞きなさい」
「リーダーだったの」
 つもりだったの。頬を左右から押してみると、「そうよ」と潰れたまま得意げに答えてきた。
「というか藤和家ってお前……いやまぁいいんだけど」
 ここが藤和の家であることは間違いない。脱力しつつ、いつもの席に座る。
「長田君はご飯食べるのかな?」
「む?」
 ヤシロが箸を片手にてってこ走って、ごにょごにょと長田君と話し込む。
 友達ではないのに、妙に協力的だ。……なにか貰ったのかな?
 話し終えたヤシロがこっちに言う。
「食べても消化できないそうだ」
「そ、そうなの」
「んむ」
 長田君が、話は終わったとばかりに去って行く。廊下をぺたぺた歩く音がして、それから玄関の戸を開ける音が聞こえた。どうやって開けたのだろう、と思いつつ回り込んできた長田君が、言ったとおりに庭に転がる。物干し竿の下で丸くなる長田君は、少し猫に見えた。
「地球の環境に適応できていないのだな、古いから」
「ふぅん……」
 さらっと宇宙から来たように言い出した。いや、まぁ、地球にあんな猫はいないけど。
「わたしには環境などなんの問題にもならないがな。クックック」
 口いっぱいに頬張りながら、ただ飯喰らいの居候が勝ち誇る。
 どうでもいいが、食べながら淀みなく喋るな。どこから声を出しているんだろう。
 それから何事もなかったように朝ご飯を取り、そして。
 長田君がさっそく、娘の襲撃に遭っていた。
 娘にてってこ追いかけられた長田君が、やる気なさそうに逃げ回っている。実際のところ、外見が雑なので、やる気を推し量るのは大変に難しい。足の動きが前後に適当だし。ただのたくた逃げている雰囲気がヤシロにどこか通じるものがあるので、多分本気で逃げてはいないのだろう。
 実際、庭を二周したあたりで長田君は娘に捕まった。娘に抱えられた長田君は抵抗もしない。長田君は噛んだりしないだろうかと少しだけ心配になったけど、口がどこにあるのか正確に分からないので注目しづらい。娘が庭にいるエリちゃんの側へと走っていく。
 ちなみに女々たんは定休日でもないのでよよよと泣きながら仕事に行きました。
「もっちゃもっちゃ」
 一方、それを眺める居間には俺とヤシロがいた。転がってなにか咀嚼している。日だまりに転がるこちらの方が仕草は猫っぽい。
「なに食ってんの」
「角砂糖」
 ごくんと飲みこんでから、ぐてぇっとさらにだらしなくなる。ほっといたらそのまま寝るだろう。一日十二時間は寝る、子猫の如く。
「そもそもなんでうちに泊まろうと思ったんだろう」
「別のウチュージンが住んでいるしここなら安全かと思ったそうだ」
 砂糖がなくなって口寂しそうにしているヤシロが、もごもごと答える。
「ほぅ、この家に宇宙人がいるのか」
 誰だろう。心当たりがたくさんだ。
「クックック」
 頬が溶けるように潰れている。こいつの親族らしきものが以前に訪ねてきて話していたが、こいつは上から三番目くらいの怠け者らしい。……外れを掴まされたんじゃないだろうか。