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「待ち合わせが回転寿司というのも風情があるね」
「どこに?」
 呼んだ方が目を細めてきた。ぼくが聞きたい。
 適当に笑って流しながらぼくもタッチパネルで注文しつつ、席に着く。
 十年も経てば、ぼくが見つけた美はすべて形を変える。
 時は何物をも流していく。
 髪型、肌の艶、双眸、声、醸し出す稚気。ここにはもう、なにもない。
 眺めていると頭を掻きむしりたくなるほど、世界は残酷で。
 王冠を模した小さな髪飾りだけが、そのまま頭に残っていた。
 かつては超能力者のようであった彼女の神がかり的な能力は、年を経るにつれて薄れていくように思う。今ではいい加減なもので、大体外れる。人はそれを単なる勘という。或いは本人が曖昧にしか感じ取らない道を選んだのかもしれない。なにしろ、その感覚を発揮したせいで巻き込まれた事件は片手で数えきれない。生きるために向いていない能力なのだ。
「ルイージはどうなの? 今日も犬探し?」
「今かい? ちょっと面倒なことを頼まれているよ」
「面倒?」
「いつ終わる仕事なのかも分からないけど……まぁ、知り合いの依頼だし同情もなくはない」
 ふぅん、とそこまでの興味もないのかトウキが流す。それから、胸に手を当てる。
「あたしはね、劇的な探偵をやるつもり」
 そう、成長した彼女は探偵を志した。なにを考えているのだろうと思うけど。
「外を歩けば黒ずくめの男に追われて、自家用機に乗って空を飛べば墜落遭難、ペンションに行けば自称カメラマンの殺人犯に襲われる日々。そんなところね、あたしの理想の探偵は」
「夢みたいな話だね」
「夢ってそういうものでしょう」
 冗談みたいなことを彼女は平気で言うようになっていた。全てを見通すことを嫌っていた子供はもういない。超常的な力を失った後だからこそ、あえてそういう夢を抱くのかもしれない。
「あたしは派手な探偵になってみせるわ。世の中の不思議はぜーんぶ、あたしのもの」
「はでたん……」
 意味もなく略すと、気に入ったらしく「それいい」と笑う。
 そして、その笑顔のまま。
「そうしたら、ルイージはいつまでも犬を探せるでしょう?」
 なんてことを、当たり前のように言ってくるのだから。
 いやぁ、もう。
 ぼくでさえ間違いを起こしそうになってしまう。
「……きみはやっぱり、最高の女の子だった」
 ありのままに感じたことを、花束のように目の前の彼女に届ける。
 旬を過ぎた彼女が、微かな寂寥を含んだように口元を緩めた。
「だった、ね」
「女の子以外の女と友達になったのはこれが初めてだ」
「すっげぇ意味の分かんない日本語を使われた」
「ああそうそう、これお祝いなんだけど」
 持ってきた紙袋をトウキに渡す。「あら意外」と受け取ったトウキが微笑む。
「中学生以外にも優しくする気持ちがあったんだ」
「まぁね。そして小学生にはもっと優しくできる」
「死んでしまえ」
 軽口を叩いてから、トウキが「ありがとう」と真摯に礼を述べてくる。
 この子からそんなしっかりしたものが返ってくる日が来るなんてな、と少しこそばゆい。
「気に入るかは分からないけど、ぼくなりに考えて選んできたよ」
「わぁ……」
 トウキが紙袋を覗く。そして中身を取り出して、首を傾げた。どう持つかすぐに分からなかったらしい。くるりくるりとそれが躍るように回り、トウキがようやく方向と形を意識する。
 そうそう、そこを握って構えるんだ。
 にっこりと、祝福する。
 うーん、劇的な探偵にはやっぱりこういうものの一つも必要だな。
 トウキはそれを手にしたまま、目を丸くする。
 驚く表情は郷愁めいたものを思い出すほど、昔の彼女の面影を残していた。
「なにこれ」
「トンファー」


劇終