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 三章『家出』

 十二月二十七日。
 冬休みに入って、三日目。冬にしては、その季節には似つかわしく無いほどの麗らかな日和だった。
 私の人生にとって多分いや絶対、最も大切で大事な大作戦を決行する日がきた。
 作戦名を『最初で最大のアニイ攻略大作戦』と名付けた。構想に五日、準備に二日を費やし、叡智の全てを掛けた大作戦だ。失敗するわけにはいかない。私の人生の全てが懸かっている。成功するまでは帰れない。
 午前十時。私は、由比ヶ浜一丁目にあるアニイの家の玄関の前に立っていた。
 大きな深呼吸を三度して、玄関ドアの横にあるインターフォンのボタンを押した。
暫くすると、インターフォンから声がした。
「どちら様ですか」と、アニイの声だ。やっぱりこの時間は家に居るんだ。作戦成功。
「西ですけど。歌です」
「えっ、お前、どうしたんだ。何で来たんだ。昨日もその前の日も海で、チャンと会ったろ」
「緊急事態なんです」
「何だよ、緊急事態って。この暮れの押し迫ったときに、どういうことだよ」
「だから、緊急事態なんです」
「何だよ、だから」
「アニイの顔を見てからでないと話せません。それに失礼ですよ。お客さんにその態度」
アニイの声とは別に『そうですよ、いってあげなさい』という小さな声が漏れ聞こえた。多分、アニイのお母さんだ。
「ったく。もー、チョッと待ってろ、いま、降りていくから」
アニイが、二階から降りてくる足音がする。
 アニイの家は三階建てだ。一階が駐車場で、北向の駐車場の横のアプローチを通って南へ出ると、アプローチが少し階段状に上って回っていて、中二階みたいな位置に玄関がある。二階と三階が住居のようだ。外観は白いタイルで出来たお洒落な家だ。
 ドアが開いた。アニイが出てきて「どうしたんだ」と言っている隙に、横をすり抜けて中に入り込んだ。作戦成功。
「どうしたんだ。そんなに大きなキャリーバック持って。旅行か」
「家出です。家出してきました」
「エーッ、たまんねーな。嘘だろ」
「本当です。家出してきました」
「どうして。お母さんと喧嘩でもしたのか」
「喧嘩はしてません。相談はしました」                                        
「何言ってるかサッパリ意味わかんねー。たまんねーな。ホント。お前嘘だろー」
「嘘じゃありません。本当です。アニイの家に家出してきたのです」
「だから、何でだよって聞いてるだろ」
「夢中になれるものが、ここにあるからです。それで家出してきました」
「何だよ、それ」ってアニイが言っているときに、二階から『玄関先で、お客様に失礼ですよ。信吾、上がってもらいなさい』という声がした。アニイのお母さんだ。アニイの名前は『信吾』っていうんだ、新田信吾がフルネームか、チョッと古臭くてお侍さんみたいな名前だけど修行僧には合っているかも。
 アニイは私を下で引き留めようとしていたけれど、無視して勝手に階段を上って二階に向かった。後ろで「たまんねーな」というアニイの声がしていたが、「失礼します」と言って、二階の部屋へ入った。作戦成功。
 二階は、かなり広いワンルームで天井が高い。北側の私の背丈位の低めのロフトにアニイのお母さんが居て、正座をして待っていた。
 私は、お母さんの居るロフトの下のフロアーに正座して手をついて、深々とお辞儀をした。
「西歌と申します。はじめまして。今日は、突然で申し訳ありません」