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 四章『追憶』

   あれは、俺とタケが中学二年のときだった。前にも少し話したけど、タケんちのお袋さんが癌になって病院へ行って医者に診て貰ったら、手遅れかもしれないって言われて大変だったんだ。それで藁をも掴む思いで、不治の病に霊験灼かっていわれていた北鎌倉の円覚寺の近くにある神社にタケを連れてお参りに行ってたんだ。連れてってと言うよりも、タケが自分で、どうしても着いて行く、俺も一緒にお参りするって着いて行ってたんだ。
 医者なんてあてにならないよ。自分の保身のことばっかり考えてて、俺も一時期医学部にいたけれど、『医者は限度を知り節度と安全を守ることが職責で、それが正義だ』って教えられたよ。そんなこと患者に言ったら、患者は絶望するよ。希望と勇気と想像力を持って患者に向かい合わないとダメだよ。医者も患者も人間なんだから、明日を夢見るし想像力もあるだろう。それがなかったら、ただの動物だよ。動物は明日を夢見ないし、永遠や宇宙を想像したりはしない、それと一緒になっちゃうよ。今日の技術は、明日の技術にもう遅れているんだから、仮に今日は無理でも、明日は何とかなるかもしれないって言わないとダメだよ。
 そう言わないから、医者に希望が持てないから、藁をも掴む思いで、自分がまだ知らない不思議な不変的な力が何処かにあるんじゃないかって思って、必死になって探して、そして縋るんだよ。
 なんだか愚痴になっちゃったなー。まあ、それはそれとして。
 それで、神社にお参りしだして暫くしたある日、タケが俺に言ったんだ。
「信ちゃんさー、俺、今お袋と北鎌の神社にお参りに行ってるじゃん」
「うん。タケは偉いよ、チャンとやってるよ。お袋さん喜んでるだろ」
「まあなー。それでさ、その神社の本殿のところに絵馬のデッカイやつみたいなのがいっぱい掛かっててさー、板に絵が画いてあるわけさ。その絵の中に変な絵があってな、船の船首に長い棒が付けてあって、その棒の先から縄が垂れてるわけ、その縄の先に子供だと思うけど小さい人間が縛ってあって、そいつが海の上に立ってるっていうか、歩いているっていうか、そういう風に見えるわけよ。向かい合うもう一艘の船には船腹から網が下ろされてて、その網の中に女の人、多分婆さんだと思うけど、が入ってて海に沈められてるわけさ。それで婆さんの丁度真下の海底のところは青緑に光ってんの」
「ヘー、変わった絵だな」
「そうだろ。だから俺が変な絵だなーと思って、若い神職の人にこの絵って何が画いてあるんですかって聞いたんだ。そうしたら、真顔でさー、これらの絵は全部、昔からの霊験灼かな奇跡の出来事を画いてあるんだって言うわけよ」
「ふーん。奇跡ねー」
「そう。俺が特に気になったさっきの絵について詳しいことを聞きたいって言ったら、これは由比ヶ浜の海岸近くで起こった奇跡で、宗佑っていう名主の母親を海に沈めたら不治の病が治ったという言い伝えの絵だって言うわけよ」
「随分具体的なんだな」
「うん。それでその宗佑っていうのが、神社へのお礼として神殿の横に祠を建てて、この絵を奉納して他にも色んなものを寄進したんだってさ」
「何だか、お伽話みたいな話だなー」

「うん。俺も笑って、何だお伽話かって言ったらさー、そいつが怒って何を言ってるかっていうわけよ。それで、一生懸命に話をしだしたから、その話を聞いてたら、なるほどなーと思えるところもあったんだ」

 タケは、自分に纏わる出来事をいつも大袈裟に話す癖があった。特に喧嘩に勝った話とか、大きい魚を釣った話とか。それで、またいつものやつなんだなと思ったんだけど、今回のはお袋さんに関係してる話だし、チャンと聞いて調子を合わせてやらないとダメだなって思ったんだ。

「まあ、鎌倉には昔話っていうか伝説みたいなものが多いからな。六地蔵のお話みたいなのもあるし」