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 五章『再会』

「まあ、こんなところかなー。随分長く話したなー、喋り過ぎた」と言って、アニイが大きく息を吐いて瞼を閉じた。
 そして、アニイが吸い込まれるようにして溶け込んでいた遠景の中から、深い闇の中から戻ってきた。
 再び瞼を開いたその眼差しは、レースのカーテン越しの闇の更にその遠くに向けられたままだったが、微かに揺れて濡れた睫毛と深い海を映したように静かな瞳は、もう現実の照明の淡い光を映していた。
 アニイは身体を椅子とともに私の方へ向け、深く長い深呼吸をして、長い回想を終えた。
「こんな話や俺の気持ちを、誰かに話すのは初めてなんだ。一生、誰にも話す事はないと思っていた。だけど、話してみて良かったよ。ウータに聞いて貰って良かった。ウータって不思議だよなー、何か話せちゃうんだよな。話してみようかって気になるんだよな。取れて零れ落ちることがない胸の辺にある鉛の塊の薄皮だけなんだけど、また乾いた皮膚が剥がれていくように、ホンの少しだけ剥がれ落ちたような気がする」
 私は黙って席を立ち、アニイの後ろに回った。そして椅子の背もたれ越しにアニイのことを後ろから思いっ切り抱きしめた。中学生のアニイを抱きしめているようで愛おしかった、慰めてあげたかった。アニイは不意をつかれビクンとして身体を一瞬硬直したが、何も言わずに直ぐに身体の力を抜いて、そのままにしていた。
「話し辛いことを話してくれて、聞かせてくれてありがとう。アニイとタケちゃんのこと聞けて良かった。アニイ大変だったね」
 私はアニイの胸の辺りを子供をあやすようにポンポンと軽く叩き、息が掛かるくらいに口をアニイの耳元に近づけて囁いた。
「みんな大変なんだね。生きていくということは、それだけで大変なことだよね。苦労が無い人はいないってことだよね。みんな一緒だね」
 アニイは黙って深く首肯した。
 私の唇がアニイの耳と項に微かに触れて温かかった。
 私は椅子越しにアニイのことを後ろから抱きしめたままで聞いた。
「アニイさー、その後どうなったの」
 アニイは振り向くことなく、そのままの姿勢で話し始めた。
「さっきの事があった二日後、たしか夏休みに入った日だったと思うけど、タケと二人で図書館に行って館長に見て貰ったんだ。タケの携帯電話で撮ってきたものを」
「どうだったの」
 私は、まるで母親になったような口調で聞いた。
「良く撮れてて『全部は無理かもしれないが、何とか読めるだろう』ってことだった。それで『読んでおくから明日また来なさい』って言われて、次の日に出直すことにしたんだ。だけど、何処から撮ってきたんだって五月蠅くって困ったよ。それは言わなかったけどな、結局」
「内容が分かったんだ」
 私は時めいていた。推理物の謎解きを聞いている気分で、少し不謹慎かとも思ったが胸が高鳴った。
「そうなんだ。タケが神主から聞いていた話とほぼ同じ内容だった。ただ、もう少し詳しい事が分かったけれどな。それをやったのは『宝治元年』って書いてあって、西暦でいうと千二百四十七年になると言ってた」
「へぇー、キチンと書いてあったんだね」
「そう。日付は書いてなくて、ただ『大潮の日から二日後に始めて、日に三度、それを三日繰り返した』って書いてあったんだ。あとは『船の船首に長い棒を付けて、その棒の先から縄を垂らして、霊感の強い巫女タマエの息子の佐助を吊した。佐助は身体がホンの少し浮くその場所を足の裏で探し当て、ここですと告げた』と書いてあるって言っていた」
「人の名前まで書いてあって、凄く具体的なんだ」