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 六章『旅立ち』

皆それぞれに席を立って、身体の伸びをした。
 お母さんがロフトから身を乗り出して言った。
「タケちゃんと花子さんは、狭くて申し訳ないけど、そこの部屋を使って頂戴」
 お母さんは、私が今使っている部屋を指差して、そして続けた。
「歌ちゃんは信吾の部屋へ行って貰えるかしら、お布団を持って」
 アニイは驚いて周りを見ていたが、皆は当然という顔をして取りあわなかった。
「ウータ、お前さー、お袋が喜ぶからお袋の隣にしたらどうだ」
「良いじゃない信吾、歌ちゃんと一緒で。良いわよね歌ちゃん」
「ええ、勿論です」
 私はそう言いながらアニイを無視して、部屋からお布団を運び出してサッサッと三階に上がった。
 アニイは諦めた様子で、タケちゃんに声を掛けた。
「タケ、ラフな格好で来いよ、花子さんも。着替え持って。風呂を入れとくから」
「信ちゃんは本当に風呂好きだなー。今でも日に何回も入るの」
「ああ」
「おばさん、じゃあ、お布団借りるよ」と言いながら、勝手をよく知っているようでロフト下の納戸に入っていってお布団のケースを引っ張り出して、部屋へ運んでいた。
 花子さんは、駐車場に留めてあった車の中からスーツケースを持ち出してきて戻ってきた。 
 私は三階でお布団を仕舞ったり簡単な片付けをして、二階に戻りキッチンでお摘みを作って三階に戻ろうとしていた。踊り場に上がったところで、お母さんが「歌ちゃん、そういえば晩ご飯のことだけれど今日は用意しなくて良いからね。ゆっくりしてらっしゃいよ」と声を掛けてきた。「どうしてですか」と私が聞くと「タケちゃんのお父さんが、お昼に電話をくれたときに『晩ご飯はワシが作るから用意しないで下さい。そちらにお持ちしますから』って仰ったの、私は正直言って歌ちゃんのお料理の方が好きなんだけれど『嫁も来ていて良いところを見せたいから、是非』って仰るんで、それ以上は言えなくて宜しくって言っちゃったの」とのことだった。
「分かりました。お言葉に甘えて、そうさせて頂きます。ところでお母さんもどうですか、ご一緒しませんか」と私は三階を指差してお母さんを誘ってみた。
「ううん、私は流石に少し疲れたから遠慮をするわ。横にならせて貰います。でも誘ってくれて、ありがとう歌ちゃん」
 私は三階でタケちゃんと花子さんが来るのを待っていた。アニイはバスルームにいて準備に余念がない。
 五分程して二人が上がってきた。
 タケちゃんがドアを開けて入ってきた瞬間、私はタケちゃんを指差し「ああっあー」という大きい叫び声をあげた。タケちゃんは一瞬脇を締めてその場で固まり、花子さんはしゃがみ込んでしまった。アニイはバスルームのドアを思いっ切り叩き開け「どうした、ウータ大丈夫か」と部屋へ走り込んできた。
 私は「すみません、大きな声を出して。チョッと驚いたものですから」と恐縮した。私は皆の驚きように却ってビックリしてしまった。
 下からは「大丈夫なのー」と言うお母さんの声がしていた。
 アニイが「大丈夫、だいじょうぶー。ウータの阿呆が皆のことを驚かせただけー」と下にいるお母さんに声を掛けていた。
 タケちゃんが「でも今の信ちゃん早かったなー。脱兎の如くだな。何だかんだ言っても歌ちゃんのことを愛しているんだなーへへへっ」
「そんなことねーよ。あんな声を聞いたら、誰でもビックリするだろう。それで、どうしたんだウータ、そんな大声出して」

 アニイが、そう言いながら私の前にしゃがみ込んだ。